PRODUCTION NOTE

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』

〝新型コロナウイルス・パンデミック〟で幕を開けた、2020年代。未知のウイルスに人々がおののく中、自らの命を顧みず、命を救うために尽力するすべての医療従事者へのエールとリスペクトを込めて、新たなカタチの救命医療ドラマ『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』が制作された。2021年7〜9月にTBS系列で放送された同シリーズでは、オペ室を搭載した特殊車両=ERカーで事故・災害現場へ駆けつけ、患者の命を救おうと奮闘する医療のスペシャリストたちの活躍が描かれた。チーフドクターの喜多見幸太をはじめとするTOKYO MERメンバー個々の人物像にも焦点を当てつつ、困難な状況でも、チームの結束によって「死者ゼロ」の使命を果たしていく物語は、多くの視聴者の心を動かした。視聴率は最終回で19.5%(関東地区)を記録。企画段階から映画化も視野に入れ、通常の連ドラの枠を超えたスケール感で描かれていたこともあり、劇場版の制作が決定する。
 ドラマ版の最終話から2年後。2023年4月末に公開された劇場版1作目は、横浜の象徴であるランドマークタワーで大規模火災が発生するというストーリーが描かれた。ビル内に取り残された計193名の中には、新しい命を身ごもった喜多見の妻・千晶の姿も・・・。新設されたYOKOHAMA MERとも連携して、危険な現場へ向かう喜多見たちTOKYO MERの面々は、次々と降りかかる危機に勇気とチームワークで立ち向かい、見事に「死者ゼロ」を達成。手に汗握る展開と、喜多見と千晶の夫婦愛や仲間同士の絆など人間ドラマが相乗効果を生み、〝劇場版MER〟は、興行収入45.3億円の大ヒットとなった。 
 そして、2025年8月──MERのメンバーたちが再びスクリーンへ戻ってくる。舞台は沖縄県と鹿児島県にまたがる大海原。海を越え離島医療に従事する新チーム=南海MERが誕生し、火山の大噴火から全島民を救うというシリーズ最大のミッションに挑むさまを、前作をもしのぐスケールで映し出す。
 なお、松木彩監督は、「ドラマ版の最終回も同様なんですけど、撮影していた時はMERシリーズを完結させるつもりで臨んでいたんです。なので、劇場版第2弾が決まった時は、正直驚きました。ですが…、もし映画の続編を撮る機会があるとしたら、雪山での話をやってみたいと思っていたので、勢いあまってプライベートで雪山にロケハンしに行ってしまったこともありました(笑)」と明かす。
 一方、八木亜未プロデューサーは「シリーズ化したいと思っていても、まずはファンの皆様に求めてもらわれなければ不可能なわけです。そういう意味では、多くの方々に愛されて続編を望まれることの幸せを噛みしめました」と、襟をただしつつ、映画続編制作決定の喜びを噛みしめた。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』

 数々の危険なミッションに挑み、「死者ゼロ」の理想と目標を達成してきたTOKYO MER。その実績が評価され、厚生労働省は横浜に続き、全国主要都市部(札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡)にMERシステムを展開した。そんな中、沖縄と鹿児島の諸島部における救命医療の充実をはかろうと、2つの県が合同で運用する「南海MER」が試験的に始動することになった。泥道や森の中など険しいオフロードにも対応するため、小回りの利くサイズ。さらに悪路にもびくともしない強靭なタイヤを装着した中型ERカー・NK1。その車を専用フェリー=NK0に搭載し、離島での事故・災害にも対応できる画期的なプロジェクトとして、地域の期待と関心を集めていた。チーフドクター候補は、熊本の小さな病院に勤務していた牧志秀実。以下、看護師にしてME(メディカルエンジニア)、そしてNK0の操舵士も務める常盤拓と知花青空、麻酔科医の武美幸という少数精鋭のメンバーで編成。新メンバーを指導するため、喜多見と夏梅がTOKYO MERから出向というかたちで合流。半年のあいだ生活を共にしながら、新たなMERの在り方を模索していた。
 続編制作決定を受け、制作陣と脚本の黒岩勉らははまず舞台の選定から着手。前作のビル火災よりもさらに大規模で、これまでのMERにない状況設定を考え抜いた結果、喜多見たちを自然の脅威に立ち向かわせるという大枠が決まる。かねてから黒岩には、離島医療というテーマも踏まえてMERを海へ展開させたいという構想があり、火山島の噴火を絡めたディザスタームービーにしてはどうか、とシナリオの背骨を固めていった。
「MERシリーズが好きな子どもたちをワクワクさせたいという思いもあって、前作のY01のように今回も新しい乗り物を登場させたかったんです。ただ、単にERカーが増えるだけでは芸がないので、フェリーに積んで海上を移動できるようにすれば、噴煙でヘリが近づけない島にも接岸できるだろう、と。しかしながら、装備は都市部のMERと比べると整っているとは言い難く、スタッフの経験値もけっして高くはない…けれども心意気や意識は高いチームとして描けば、従来とは違う視点で物語が紡げると思ったんです」(黒岩)
「NK1は車両の大きさ的にもフル装備にすることができなかったので、医療監修の関根和彦先生に『離島だからこそ、何か1つ載せるとしたら?』と伺ったところ、内視鏡だとおっしゃって。やはり出血を止めることが最優先されるので、そこはリアリティーを重視しました」(八木P)
 南海MERという組織のディテール、そして喜多見たちが新たに挑むミッションが決まったことで、物語の流れも定まっていった。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』

 本シリーズの原点であり、今なお核としてあるのは「すべての医療従事者に対する感謝とリスペクト、そしてエールを」のスピリット。ただ、今回の「南海ミッション」では市井の人たちなど、誰もがヒーローになり得る物語として、その決断や行動にも焦点が随所で当てられているのが特色だ。
「『TOKYO MER』の企画が立ち上がったコロナ禍当時から数年が経ち、世の中の温度感も少しずつ変わってきました。もちろん、医療従事者の皆さんに対する敬意は変わりませんが、喜多見チーフたちだけをヒーローとして描く物語にするのは、ちょっと安易な気がしたんです。なので、南海MERの成長と活躍を主軸としつつ、麦生(玉山鉄二)たち島民の人の勇気ある行動であったり、音羽統括官や赤塚都知事たち行政側の人たちの選択や決断といった面もクローズアップしながらストーリーを練っていきました。言うならば、総力戦ですね。火山島の噴火という災害下において、MERメンバーの力だけで人命を守るのは極めて難しい。でも、当時者である島民たちの協力であったり、秒単位で判断を迫られる政府側の人たちの行動次第で、状況を変えることはできる。シリーズものの難しさでもありますけど、主人公たちの活躍を見たいという期待に応えつつ、常に前作を超えるような──想像もしていなかった展開を考える必要があると思っていて。そこで今回は、『誰もが勇気と行動次第でヒーローになれるんだ』と思える話にしました」(黒岩)
 選ばれた特別な人がヒーローなのではなく、誰かのために勇気をもって行動できる人は誰でもヒーローになれる──。そのメッセージにこそ、『南海ミッション』の真髄がある。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』

鈴木亮平をはじめとするレギュラー陣はもちろん、ゲストキャラにいたるまで膝を打つキャスティングも『TOKYO MER』シリーズの楽しみの一つ。今作では、鈴木と菜々緒がそれぞれ演じる喜多見チーフと蔵前夏梅看護師長が、南海MERに出向するかたちでメインを担うほか、経験を積んで頼もしくなったセカンドドクターの弦巻比奈(中条あやみ)を筆頭とする、おなじみのTOKYOチームメンバーがしっかり留守を預かっている。
 一方、今作から新登場となる南海チームも、チーフ候補・牧志役の江口洋介をはじめ、高杉真宙(常盤拓役)、生見愛瑠(知花青空役)、宮澤エマ(武美幸役)と豪華な顔ぶれになった。牧志は飄々としていて「平和が一番」が信条。島民1人ひとりと町医者的な距離感で接し、健康状態や持病を把握しているがために、慎重になりがちだったりする。その姿勢は南海MERで実績をつくりたい常盤、知花、武からすると歯がゆくも映るが、実は牧志が悲しき過去を背負っていることは知る由もない──。
 この南海チームの配役について、八木プロデューサーは次のように意図を語っている。
「江口さんは芯のある人物も、ちょっと軽妙なキャラクターのどちらも演じられる方。牧志は腰抜けに見えて実は信念がある男というところが、イメージにぴったりだなと思ってオファーさせていただきました。また南海チームは『牧志vs若手』という構図でもあったので、フレッシュでありながら確かな演技力をお持ちの高杉さんと生見さんを常盤と知花に、若手2人の姉御的存在である武先生を、宮澤さんにお願いしたというのが経緯です。
 黒岩は、江口が牧志という人物を演じることを念頭において、筆を進めていった。
「江口さんには『救命病棟〜』のイメージもあるので、朴訥としつつも、少し枯れた感じを出していただけたら、と思っていました。ただ、牧志は前のめりに『オペします!』という感じではないんですけど、目の前の命をすごく大事に考えて行動するスタンスは崩さない。過去のことを忘れることはないんですけど、引きずってはいないんです。その人間的な深みが、江口さんのたたずまいや表情によって感じられたのが、うれしかったです」
 なお、牧志と知花は沖縄に、常盤と武は鹿児島にちなんだネーミングであることは、ドラマシリーズからのファンであれば一目瞭然だろう。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』

 今作では2024年の11月から12月にかけて長期の沖縄・鹿児島ロケを敢行。スタッフ陣の労を惜しまないリサーチとロケハンによって、格好の撮影地が見つかる。…が、撮影時には季節外れの台風が重なるなど、天候との戦いを余儀なくされてしまった。
「ロケハンでうかがった時から、沖縄も鹿児島も空の見晴らしがすごく良くて、ちょっと異国的な雰囲気といいますか…空気の違いを肌で感じていたんです。実際、旅行していただけでは見つけられないような素敵な場所で撮影させていただくことができて、今までの『TOKYO MER』とは違った映像になるという実感がありました。ただ、天気に翻弄されるロケだったのも事実で…沖縄入りしてすぐにものすごい豪雨が降って、森の奥地にある川の水位が上昇してしまったんです。本来は水が澄んでいる場所だったんですけど、我々が行ったら濁流みたいになっていて──。何日か水が引くのを待ったところで、〝火山の噴火で、そのような水の流れになった〟と考え方を補正することにして、ロケを敢行しました。当初のイメージとは変わりましたが、起こることに対応しながら撮影することで生まれるものもあるので、そこはポジティブにとらえることにしたんです」(松木監督)
 また強風のために、NK0の到着が遅れたり、港のロケではテントが飛ばされそうになるなど、自然との戦いはなおも続いた。おまけに冬でも温暖なはずの沖縄が低気圧の影響からか、気温もあまり上がらず、待機中にキャスト陣が暖をとるといった想定外の光景も…。しかし、その風の強さを逆手にとって、NK0の船上シーンは港に停泊しながら、海上を進んでいるように撮るなどスケジュールの遅れを取り戻していった。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』